ここ最近大きな通りを走っていると、7月3日に行われる総選挙の立候補者の立て看板を多く見かけるようになりました。
タイは現在雨季真っ盛り。ですから、日本のような小さめの紙ポスターではすぐに激しい雨と風でよれよれになってしまう。
そこで使われるのはフィルムのような耐水性ばっちりの紙、サイズがやたらと大きく、そこに自分の顔写真、ポリシーなどを目立つように入れます。写真からもおわかりかと思いますが、ポスターというより看板の趣。
旦那いわく、1枚当たり1000バーツ近く掛かっているらしい。材料費、デザイン費、印刷費に設置費など。各候補者が狙いを定めて設置するんだそうですが、看板がやたらと多い人ほど、政治資金を贅沢に使える余裕がある、という見方もあるわけです。
我が家近辺で多く見かけるのが、写真のチューウィット氏。ひげ面で「俺は怒ってるんだよ」みたいな表情のアップがどうもつぼにはまるというか、我が子もお気に入りのようで、通学途中や出掛け先で彼の看板を見つけると、嬉しそうに「あ、チューウィットさん」と声掛けてます・・・
この人、確か前回のバンコク都知事選にも立候補していたのですが、選挙運動中に出演したテレビ番組で、司会者に面白くないことを番組内で言われてしまい、カッとなって殴っちゃった人。それから、タイの風俗界の王様とも言われてるらしいし、エンポリアムの脇スクンビット24を奥に入ったところにあるDavisホテルのオーナーらしいし。
子供に限らず、私も気になるチューウィットさんって何者なんだろうと、ちょっと調べてみました。
チューウィット・ガモンウィシット氏は、香港人の父、タイ人の母を持つ、今年50歳の男性です。タイのタマサート大学卒業後、アメリカ西海岸のサンディエゴでも学位を取得。別れたアメリカ人の奥さんとの間に、二人の子供がいるそうです。
もともと風俗マッサージ店のオーナーで、いわゆる夜の世界の帝王として有名でしたが、1993年に、彼の土地を借りて商売をしていた人達が家賃を滞納したことを怒り、友人の力を借りてブルトーザーなどを使って実力行使で派手に潰してしまい逮捕。
そのほかにも、未成年者をマッサージ店で働かせていたなど、何度か警察のご厄介になっているそうなんですが、93年に逮捕された際、「俺は警察に十分に賄賂を払っているのに、何で逮捕するんだ。何なら、賄賂を払ってる警察の人間の名前全部出すぞ」と騒いで一躍有名人に。そして、本当にいついくら誰に支払ったか、また自分のマッサージ店で警察官のお偉いさんにフリーでVIP待遇させたとか何とか、暴露しちゃったわけです。
それまで、きっと誰もが感じていた「警察と賄賂」という腐敗した部分を公言したことで、国家権力である警察を敵に回すも、「よくぞ言ってくれた」と国民に思わせた部分もあり、その後政治家としての活動を開始しました。
「警察の汚職撤廃」を常にスローガンに掲げ、これまで2回バンコク都知事選に立候補しましたが、いずれも3位で落選。政治家転進直後の2004年にFirst Thai Nationという党を自ら設立しましたが、翌年チャートタイ党に吸収されてからはチャート・タイ党所属元下院議員として活動してきました。
そのチューウィットさん、今年の1月に何と自らを党首とする政党を立ち上げた事を明らかにし、先日5月13日に正式に「ラックプレテートタイ党(タイを愛する党)」を設立しました。会見場所は、自宅のあるスクンビット10。ここは、例の強制立ち退き騒ぎで以前彼自身が逮捕された場所でもありますが、商店を追い出した後は、自宅と日中は一般人にも開けた公園になっています。ここで、92歳のお父さん、愛犬を連れて記者会見を開いたそうですが、「政治家より犬の方が正直だ」というメッセージらしい。
それにしても、我が家近辺やたらとチューウィットさんの看板が目立つ。何を狙ってる?まさか、私がいる郊外のこのあたりは、チューウィットファンが多い?今はマッサージ店の営業には直接関わっていないとは言うものの、ものすごい資金力ですな。
ちなみに、耐水性の強い看板は、選挙が終わった当日の夜に一般の人が持って行ってしまうことが多い。屋台の即席座席の屋根や壁に、おんぼろなお家の軒先に、選挙後も我が家近辺ではチューウィットさんの顔をあちこちで見ることになるんだろうなあ。
なんとなくハマコーを思い出させる、がらっぱちで、怒りんぼで、精力抜群そうな、笑うとけっこうおちゃめっぽい雰囲気のひげのおじさん。私に選挙権はないけれど、もしあったらつい入れてしまいそうな、不思議な魅力があります。(看板に洗脳されてるだけかも?)